モータの基礎知識

著者:東京都市大学 工学部 教授 工学博士 百目鬼 英雄

モータとは、電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する装置の総称です。電動機とも呼ばれます。身近なところでは、携帯電話や白物家電、PCなどの電気機器には、ほとんど全てに使われています。さらに、産業用途でも、さまざまな駆動のためにモータは使われています。製造業の技術者とモータは、切っても切れない関係といえるでしょう。本連載では、皆さんが中学・高校で学んだであろうフレミングの左手・右手の法則からはじまり、各種モータの動作原理、モータの選定方法まで、全8回にわたり解説していきます。

第1回:モータとは?

1. モータの定義と原理

モータと発電機は、どちらも電気的エネルギーと機械的仕事を変換させる装置です。電気エネルギーを使って機械的仕事を行う装置をモータと呼び、逆に機械的仕事を電気エネルギーに変換する装置を発電機と呼びます。磁場の中にある導体に電流を流すか、磁場の中で導体を動かすかによって、モータと発電機のどちらになるかが決まります。電磁力発生の基本原理は、フレミングの左手・右手の法則で説明することができます。

図1は、磁場中の導体に電流を流すことで、力が発生する様子を示しています。力の発生は、フレミング左手の法則で説明することができます。磁界の強さをB(T)、電流の大きさをi(A)、磁場中の導体の長さをl(m)とすると、マクスウェルの式によりローレンツ力F=Bli(N)の力が発生します。

図1:フレミングの左手の法則に従う力の発生

図2は、磁場中の導体を動かすことで発電電圧が発生の原理を、フレミング右手の法則から説明しています。導体の移動速度をv(m/s)とすると、発電電圧e=Blv(V)が発生します。図2の磁場は永久磁石で作られていますが、……

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2. モータの種類

モータは、電源、回転、界磁、駆動、形態という切り口で分類することができます(図4)。

図4:モータの駆動原理からの分類

モータをインバータなどで制御できるようになる以前は、モータに供給する電源により大きく2つに大別していました。直流電源駆動と交流電源駆動です。直流電源で駆動するものを直流モータと呼び、直流モータは界磁が巻き線(コイル)か、永久磁石かで分類することができます。小容量のDCモータは高効率を実現するため永久磁石(PM)を界磁とし、大容量のモータには巻線界磁が使用されます。

交流(AC)電源で使用するモータは、交流の作る回転磁界に同期して回転するか、同期しないで回転するかに分類することができます。前者を……

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3. 超音波モータ

電磁力以外の方法でも、電気的なエネルギーと機械的な仕事の変換が可能です。コンデンサの電極間に働く力を利用する静電モータや、圧電素子を利用した超音波モータが知られています。静電モータはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)として一時脚光を浴びたものの、実用化されたものはほとんどありません。一方、後者の超音波モータは、モータを円盤状に構成できるため、カメラレンズの駆動など特殊な用途で使われています。

圧電素子(PZT:Pb(Zr,Ti)O3、チタン酸ジルコン酸鉛)は、電圧をかけると電圧に対し直角方向に伸びる特性を持っています。最初は、この特性を利用して、その変位を直線や回転運動に変えてモータとすることが研究されていました。しかし、その伸縮は……

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第2回:DCモータとは

前回は、モータの定義と原理、モータの種類、超音波モータを解説しました。今回は、モータの歴史の中で、初期に開発されたDC(直流)モータを詳しく見ていきます。DCモータの動作原理、特性、用途を学びましょう。

1. DCモータの動作原理

DCモータは、DC(直流)電源で動くモータです。DCモータは、磁石と導体で構成されます。DCモータの基本構造を、図1に示します。磁石を構成する界磁は、巻線による電磁石と永久磁石の2種類があります。大容量モータを除き、ほとんどの場合、永久磁石(PM)が使われています。また、トルクを発生する導体部分を、電機子と呼びます。DCモータでは、ロータ(回転子)が電機子です。そこに施されている巻線(コイル)は、電機子巻線と呼ばれます。

図1:DCモータの基本構造

DCモータには、整流のための機構が不可欠であり、ロータには整流子が、直流電源回路にはブラシが設置されています。界磁磁束が一定の場合、フレミング左手の法則で考えると、……

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2. DCモータの特性

永久磁石を用いたPM界磁DCモータを、最も簡単な電気回路で表現すると図3のようになります。モータのコイルには、電機子が回転することで逆起電力Emが発生し、Emに向かって電流Iaが流れることで、電気エネルギーから機械エネルギーへ変換が行われます。電気回路では、逆起電力をDCモータのシンボルMで表現し、回路抵抗をraで表します。

図3:DCモータの電気回路

界磁磁石が永久磁石で構成されるため、磁束密度は常に一定になります。電機子の電圧をVm(V)、電機子電流をIa(A)、電機子抵抗をra(1/S=Ω)、速度に比例して発生する電機子電圧をEm(V)とすると、Vm=raIa+Emが成り立ちます。この式の両辺に電流Iaを掛けると、VmIa=raIa2+EmIaとなり、これは入力電力と出力電力の関係式です。

VmIaは、モータへの入力電力を表しています。raIa2は、……

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3. DCモータの用途

小容量のPM界磁DCモータは、バッテリー駆動に多く使用されています。小容量のDCモータの構造を、図5に示します。界磁に使用する磁石に2極構造のフェライト永久磁石が使用されています。回転子(電機子)は2極の界磁磁極に対応して3スロットで構成され、特に1つのスロットに集中して巻線が施されています。具体的には、自動車の起動時にエンジンを始動させる補助機関、モバイル機器やAV機器などに使われています。

図3:小容量DCモータの構造

容量の大きなPM界磁モータは、サーボモータなど、産業用途で使われています。ほとんどの場合、……

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第3回:ブラシレスDCモータとは

前回は、DC(直流)モータの動作原理、特性、用途を説明しました。今回は、ブラシレスDCモータを取り上げます。その名のとおり、ブラシを持たないDCモータです。その構造や駆動原理、特性、用途などを解説します。まずは、なぜブラシが無くてもDCモータを駆動できるのか、その構造を見ていきましょう。

1. ブラシレスDCモータの構造

DCモータの固定子は永久磁石で、ロータ(回転子)は電機子コイルです。そして、ブラシと整流子により、整流を行います(参考:第2回)。ブラシレスDCモータは、ブラシを持たないDCモータです。固定子には3相12スロットの電機子巻線(コイル)、ロータには永久磁石が使用されています(図1)。DCモータと比較すると、固定子とロータの役割が逆転しています。

図1:ブラシレスDCモータの構造

ブラシレスDCモータでは、永久磁石の磁界とが電機子コイルの磁界が直交するように、コイルに電流を流し回転させます。電流を流す電機子コイルは、磁極位置検出器と半導体スイッチにより制御します。

コイルは、電機子の各磁極に巻かれており、電機子の中には……

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2. ブラシレスDCモータの駆動原理

DCモータは直流電源で駆動させることができますが、ブラシレスDCモータの駆動には、インバータ回路も必要です。図2は、現在広く使用されているブラシレスDCモータの駆動回路です。インバータ回路は、電機子コイルに電流を双方向に流すために合計6個のスイッチング回路(Q1~Q6)で構成されます。この回路は、インバータ主回路と呼ばれます。

図2:ブラシレスDCモータの駆動回路

図2の駆動回路では、ホールICと各相の電機子巻線軸の位相が、60度ずれて配置されています。この位置は、磁極と磁極の間です。図3は、ロータである永久磁石の位置を0度とした場合のモータの回転角と、各種信号の関係を示したものです。……

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3. ブラシレスDCモータの特性と制御

ブラシレスDCモータは、一般的に回転数を制御しながら使います。このため、速度制御回路が付加されています。速度制御回路を付加したブラシレスDCモータでは、モータと制御回路が別々です。AV機器のように、モータを装置の中に組み込む場合、制御基板とモータが一体化されます。このような特定用途向けに、インバータと信号処理回路などを1つのパッケージに収めた集積回路が市販されています。インバータ回路には、6個のスイッチング素子のパワーモジュールが使用され、CPUで励磁シーケンスや速度を制御します。

図5は、ブラシレスDCモータの端子電圧V(V)を変化させたときの発生トルクT(Nm)と回転数N(s)の関係を示したものです。電圧V1、回転数N1で一定負荷で運転しているモータの端子電圧をV2に増加させると、回転数がN2に増加することが分かります。ブラシレスDCモータはDCモータと同じように、端子電圧を制御して回転数を変化させます。

図5:電圧をパラメータとした特性

一般にモータは回転数が高くなるほど大きな出力が得られるため、効率も良くなります。ブラシレスDCモータは、DCモータのように機械的な回転数の制限がありません。定格回転数3,000rpmなどの高速設定もでき、高い効率を得ることができます。

DCモータは、DC電源により電力が供給されていたため、電圧の変更は比較的簡単です。一方、ブラシレスDCモータの電圧を変更するためには、……

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4. ブラシレスDCモータの用途

ブラシレスDCモータの構造には、ブラシが含まれないため、DCモータより長寿命というメリットがあります。また永久磁石を使用するため、高効率です。この特徴を生かして、一定速回転で長寿命が求められるハードディスクドライブやビデオレコーダなどに使われています。最近では、ドローン用のモータとしても注目されています。また、120度の通電駆動では常に1つの相にモータ電圧が出力されます。これに着目し、この起電圧から磁極位置を検出して、ブラシレスDCモータを駆動するセンサレス駆動も実用化されています。

1970 年代に、当時西ドイツの PAPST 社が、……

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第4回:ステッピングモータとは

ステッピングモータは、パルス信号によって回転を制御することが可能なモータです。そのため、コンピュータ周辺機器の磁気テープ駆動や工作機械のNCの操作装置など、多くの位置決め用途で使われています。今回は、ステッピングモータの基本的構造や分類、特性や制御方法などを解説します。

1. ステッピングモータの概要

ステッピングモータは、パルス信号に同期するモータです。ステッピングモータを駆動させるためには、駆動回路が必要です(図1)。パルス発振器からパルス信号が入力されると、定められた順序でコイルが励磁され、ある決まった角度θs(ステップ角)回転して静止します。回転角は入力パルス数に比例し、回転角速度はパルス周波数に比例します。パルスというデジタル量で、オープンループ制御できる(フィードバック制御が不要)ため、小容量の位置決め用モータとして使われています。

図1:ステッピングモータ駆動システム

2. ステッピングモータの分類と構造

ステッピングモータの分類には、VR型、PM型、HB型の3つがあります。

・VR型ステッピングモータ

VR(Variable Reluctance)型ステッピングモータは、ロータ(回転子)として歯車状の鉄芯を使用しています。図2に示すように固定子、ロータともに突極構造になっており、鉄芯の素材はケイ素鋼板や電磁軟鉄です。固定子と回転子の間に働く磁気吸引力により、トルクを発生させたり回転位置の保持を行ったりしています。突極構造による固定子と回転子の間のギャップ(空隙)の磁気抵抗が変化することで、トルクを発生させているため、可変リラクタンス(Variable Reluctance)型と呼ばれています。現在、VR型ステッピングモータは、ほとんど使われていません。

図2:VR型ステッピングモータの構造

最近注目されているスイッチトリラクタンスモータ(SRM)は、……

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3. ステッピングモータの駆動法

ステッピングモータの駆動法は、巻線方式や励磁方式により分類することができます。駆動法は、用途によって選定されます。バイファイラ駆動は古くから行われていた方法で、半導体が高価であった時代にフロッピーディスクのヘッドの位置決めなどに使われていました。近年は高速で駆動する用途が増えているので、バイポーラ駆動が一般的です。低速で振動が問題となる場合は、マイクロステップ駆動が使われています。

・巻線方式の違いによる駆動法

巻線方式による違いよるステッピングモータの駆動方法には、ユニポーラ駆動、バイポーラ駆動とバイファイラ巻き駆動があります(図5)。ユニポーラ駆動は、各相の巻線に対し単方向の電流を制御する方式です。バイポーラ駆動は、電流が交番変化する方式です。バイファイラ巻き駆動は、同一の極歯に2つの巻線が施され、極性が異なるように交互に電流を流すことによって磁束を交番変化させる方式です。

図5:巻線方式の違いによる駆動法

・励磁方式の違いによる駆動法

……

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4. ステッピングモータの特性

ステッピングモータの特性は、電気的条件と制御条件により静特性と動特性に分けられています。動特性は、駆動回路により大きく影響を受けるため、ステッピングモータと回路を一体として考えます。

静特性

  • 巻線抵抗(記号R、単位Ω):固定子に巻かれた各相のコイルの直流抵抗。
  • 巻線インダクタンス(記号L、単位mH):固定子に巻かれた各相のコイルのインダクタンス。
  • 角度 -トルク特性(θ-T特性):回転子の位置核θとモータトルクの関係。一般的に、回転子の極ピッチまたは小歯の 1 ピッチを 1 周期とする正弦波に近い曲線となる。
  • 電流 – トルク特性(I-T特性):巻線に流す電流を変化させたときのトルクカーブ。高い励磁電流では、磁気飽和によってトルクも飽和する。特に電流が0のときのトルクは、デイテントトルクと呼ばれる。
  • ホールディングトルク(HT特性、記号Th、単位N・m):外力に対し保持しうる最大トルク。
  • 角度精度:1パルスごとの回転角度の精度を表すため、静止角度誤差、隣接角度誤差、ヒステリシス誤差、リピータビリティが定義される。

動特性

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5. ステッピングモータの制御法

ステッピングモータの制御法には、オープンループ制御とクローズドループ制御があります。

・オープンループ制御

ステッピングモータは、入力パルス数に比例した位置で停止し、回転角速度はパルス周波数に比例します。自起動周波数領域では、オープンループで制御できるという特徴があります。スルー領域(起動トルク曲線と脱出トルク曲線の間の領域)の周波数で駆動するためには、自軌道領域からスルー領域への加速・減速を行う指令パルスの制御が必要となり不安定点となる場合があります。スルー領域の運転する場合、巻線の逆起電力が大きくなり電流が極度に減少するという問題があります。このため、スルー領域では駆動電源電圧を制御ため、さまざまな回路が実際に使用されています。基本的には、指令速度に対応して駆動電圧を制御します。第3回のブラシレスDCモータでも解説済みのPWM(Pulse Width Modulation)制御や、PAM(Pulse Amplitude Modulation)制御が行われています。

・クローズドループ制御

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6. ステッピングモータの特徴と応用用途

ステッピングモータの特徴は、回転子を定められた位置に停止・保持できる、ステッブ角の精度がよい、回転角度が励磁パルスの数に比例するので励磁パルス数で回転角度の制御ができる、応答性が良いので始動・停止が正確に反復できるなどです。これらの特徴を生かして、……

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第5回:サーボモータとは

サーボモータは、指令に対して回転数を追従させやすいという特長があり、制御を必要とする場面でよく使われます。かつてはサーボモータというとDCモータのみでしたが、生産技術の向上により、現在はACモータもサーボモータとして広く使用されています。今回は、永久磁石を使用したAC同期モータ(PMSMモータ)について解説していきます。

1. サーボモータの概要

サーボという言葉は、Servant(召し使い)から来ているそうです。召し使いのように、主人の命令を忠実に実行する様子から、そう呼ばれたのでしょう。メカトロニクスの分野ではサーボ機構を、物体の位置・方位・姿勢などを制御量として、目標値の任意の変化に追従するように構成された制御系と定義しています。つまりサーボ機構の特長は、……

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2. サーボモータの分類と性能

駆動技術が未発達だった時代には、駆動機構と組み合わせたDCモータが、サーボモータとして使用されていました。その後パワーエレクトロニクスが進歩し、誘導モータや同期モータのようなACモータにも、サーボ機能を持たせることが可能になりました。この駆動法は、一般的にはベクトル制御と呼ばれています。このように、DCモータでもACモータでも、サーボアンプと組み合わせることでサーボモータとして使うことが可能です。DCサーボやACサーボと呼ばれます。

PMSMサーボモータは、ACサーボでありながらDCサーボモータと同様の制御性を持ちます。ブラシの接触による摩擦損がないことから、回転速度に制限がありません。永久磁石による磁束を正弦波状に分布させて、そのトルク定数をKTとし、モータを駆動させる電流を正弦波電流にすると、PMSMサーボモータのトルクは次式で表すことができます。

この式からPMSMサーボモータは、モータの回転角によらず、トルクリプル(トルクの変動幅)を発生しないことが分かります。また、電流とトルクは比例関係にあり、これはモータの回転数に依存しないことを意味します。永久磁石の磁束を正弦波分布させるために、磁石形状やステータ極数などが改良され、トルクリプルは定格トルクの1%以下に抑えられています。

サーボモータの代表的な速度トルク特性を、定格トルクといいます。定格回転数を1として、回転数とトルク特性の関係を示すと、図2のようになります。連続領域とは、サーボモータが連続運転を行うことができる領域です。それとは別に、加速・減速時の制御性を向上させるために、短時間だけ運転できる瞬時領域が設定されています。瞬時領域では、通常定格トルクの3~5倍のトルクを発生させることができます。

図2:サーボモータの速度トルク特性

次に、PMSMサーボモータの構造を見ていきます(図3)。……

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3. サーボドライブの構成

サーボモータを駆動させるドライブは、基本的にモータと位置検出器、サーボアンプから構成されています(図4)。現在、サーボモータの位置検出器には、主に光学式のロータリエンコーダが使われています。サーボアンプは、モータへの電力を供給する電力変換部と、サーボ動作を制御する速度制御部と位置制御部から構成されます。電力変換部は、モータの種類によって回路構成が違います。DCサーボではHブリッジ、PMSMサーボではインバータです。インバータの素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が広く使われています。

図4:サーボモータの駆動ブロック

ACモータでは、DCモータと違って、電流とトルクが比例関係にありません。そのため、ベクトル量として、電流とトルクが比例するような制御が必要です。この制御法をベクトル制御と呼びます。ベクトル制御では、……

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4. 速度、位置制御ブロック

サーボモータの駆動は、モータの種類により電力変換回路が異なります。しかしトルク指令に対して、電流が忠実に制御されている場合に限り、速度や位置の制御を同一のブロックで示すことができます。モータがトルクTMを発生させた時、モータの速度をω(rad/sec)、角度をθ(rad)とすると、モータ軸の全慣性モーメントJには、次の運動方程式が成立します。負荷のトルクは、外乱トルクとしてTLで表現しています。

ラプラス変換して整理すると、速度とトルクの間には、以下の関係が成り立ちます。

また、角度の微分は速度なので、速度と位置の関係は次式となります。

位置・速度制御のブロック図を、図6に示します。負荷トルクに対しても、定常偏差を持たない制御ループとしては、比例ゲインと積分ゲインを合わせた制御器となり、PI制御(Proportional Integral Control)系と呼ばれています。比例ゲインと積分ゲインの調整により、サーボモータの応答が大きく左右されます。この調整はゲイン調整と呼ばれています。

図6:位置・速度制御ブロック

サーボ系がアナログ回路で設計されていた時代には、専門家による調整が必要とされていました。しかし、……

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5. サーボモータ選定の留意点

サーボモータは、制御性能が要求される場合によく使用されます。しかし、常にサーボモータを使用が、適切とは限りません。サーボモータは高速高応答を実現するため、トルク/慣性比が大きく設計されています。サーボモータの性能を最もよく引き出す負荷の慣性モーメントは、モータの慣性モーメントと同じ大きさとされています。また一般のサーボモータの選定の目安は、モータの慣性モーメントの5倍以下です。しかし、一般に負荷の慣性は非常に大きく、この目安を超える負荷がかかることもあります。そのため、ギアにより減速させるなど、対策を取ります。サーボモータを応用する際は、……

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第6回:PMモータとは

PM(Permanent Magnet)モータは、永久磁石を使用したモータです。永久磁石の開発とともに発展したモータで、多くの場合永久磁石同期モータを指しています。効率が良いため、家電製品や自動車など幅広い分野で使われています。今回はPMモータの構造や分類、駆動原理などを解説します。

1. PMモータとは

PM(Permanent Magnet)モータは、永久磁石を使用したモータです。永久磁石(PM)の研究開発とともに、発展しました。1930年代にアルニコ磁石(アルミニウムAl、ニッケル Ni、コバルトCoなどを原料とする鋳造磁石)が開発されると、これを応用したハイブリッド型ステッピングモータが作られました。また、同じ1930年代にフェライト磁石が開発されると、DCモータやブラシレスDCモータが作られました。1960年代になると希土類系磁石が開発され、ACサーボモータが作られました。

このように、強い永久磁石が開発されるたびに、その特性を生かすPMモータが開発されてきました。PMモータという言葉は、その時代で最も一般的な種類のPMモータを示します。近年ではPMモータというと、……

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2. PMモータの構造と分類

PMモータの分類方法は2つあります。1つはロータ(回転子)の構造による分類、もう1つはステータ(固定子)の構造による分類です。前者は、ロータのどこに永久磁石を配置するかで分類されます。ロータの表面に配置するものを表面磁石型同期モータ(SPMSM、Surface Permanent Magnetic Synchronous Motor)と呼び、ロータの内部に埋め込んでいるものを埋込磁石型同期モータ(IPMSM、Interior Permanent Magnetic Synchronous Motor)と呼んでいます。

図1:表面磁石型同期モータ(SPMSM)と、埋込磁石型同期モータ(IPMSM)

次にステータの構造による分類を見ていきます。……

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3. IPMSMの駆動原理とリラクタンストルク

集中巻線SPMSMは、界磁回転により逆起電圧が発生するので、最高回転速度に限界があります。これに対し、磁石をロータ内部に埋め込むタイプのIPMSMは、最高回転数を柔軟に設計で変えることができます。そのため、自動車駆動用モータなど広範囲の回転数が必要な用途で、使われています。

IPMSMには、4つの特長があります。1つ目は、リラクタンストルクを利用できるため、高いトルクが実現できること。2つ目は、弱め界磁(ステータのコイルに電流を流し、逆起電力を低減させること)を利用できるため、速度制御範囲を広く取ることができること。3つ目は、ロータ内部に磁石が埋め込まれるため、高速回転に向いていること。4つ目は、磁石の形状や配置の自由度が大きく、トルク特性を設計から作り出せることです。

d軸磁路とq軸磁路の違いを、図3に示します。IPMSMの特長は、d軸の磁路には永久磁石が存在するため磁束を通しにくく、逆にq軸は磁束を通しやすいことです。

図3:d軸磁路とq軸磁路の違い

永久磁石の透磁率はほぼ1で、空気層と同じ透磁率です。d軸インダクタンスLdは、……

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4. PMモータの速度トルク特性と応用用途

SPMSMとIPMSM の速度トルク特性について、見ていきます(図5)。図5では違いを分かりやすくするために少しオーバーに表現しています。

図5:SPMSMとIPMSMのトルク特性

SPMSMは定格速度ωcまで一定のトルクを発生するように設計されており、それ以上の速度では逆起電力の影響で駆動できない特性を持っています。つまり電源電圧で回転速度が制限されています。サーボモータを始めとして速度制御を精密に行うためには、制御系を線形として制御する必要があります。そのためSPMSMを使います。SPMSMは自動車のパワーステアリング機構でハンドルの動きを補佐するモータにも使用されています。

一方IPMSMは、永久磁石による線形のトルクを出力できる速度は、……

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第7回:誘導モータとは

誘導モータは、交流電源に直接接続して使うことができるモータです。産業用途で広く使われており、その結果多くのエネルギーを消費しています。そのため、効率のいい誘導モータの利用を義務付ける動きが、日本を含む世界各国で進んでいます。今回は、誘導モータのトップランナー制度から、原理・特性・制御方法までを解説します。

1. 誘導モータとトップランナー制度

誘導モータは、誘導電流により回転トルクを発生させるため、直接交流電源に接続し始動することができます。大容量化するほど効率が向上するので、ポンプ・圧縮機・送風機など、産業機器の動力源として使用されています。資源エネルギー庁の平成21年度エネルギー消費機器実態等調査報告書によると、誘導モータは、2008年度の70W以上のモータ生産台数ベースで74.9%を占めています。また、三相誘導モータが、生産容量ベースで85%を占めています(図1)。

図1:誘導モータの生産台数と生産容量の割合(数値は四捨五入)

国際的には、米国で2010年にIE3(プレミアム効率)のモータの適用義務化が始まり、欧州においても 2015 年に IE3 または IE2+インバータの適用義務化を決めています。さまざまな国々でも、最低エネルギー消費効率基準(MEPS: Minimum Energy Performance Standard)での適用義務化を開始・計画しており、モータ単体の効率規制に向けた取り組みが進められています。日本においても、……

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2. 誘導モータの構造と原理

誘導モータは、電源の違いにより、三相交流を電源とする三相モータと、単相による単相モータ(コンデンサランモータ)に分類できます。さらに三相モータはロータ(回転子)の構造から、かご形と巻線形に分類されます。巻線形はロータにも三相の巻線を施す構造で、風力発電用など大容量の特殊な用途にしか使用されません。

かご形誘導モータのステータ(固定子)は、PMモータと同様、交流三相の全節巻線で構成されています(図2左)。ロータは鉄心のスロット1本毎ににアルミや銅の導体を挿入し、鉄心の外部でその両端をアルミや銅の短絡環で短絡した構造となっています。産業用としては、図2の右に示すようにアルミダイキャストにより製造されています。リス小屋(かご)の回し車のように見えるため、かご形と呼ばれているそうです。

図2:三相誘導モータの構造(写真提供:オリエンタルモーター株式会社)

誘導モータの動作は、同期モータとは違っており、原理が複雑で、非線形の特性を持っています。動作原理は、2つに分けて考えると、分かりやすいでしょう。1つ目はロータバーに電流を流す動作と、2つ目は……

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3. 誘導モータの特性と速度制御法

ステータの磁界が、ロータ導体に2次電流を流す働きは、変圧器の1次・2次の関係と同様なので、変圧器同様、等価回路から特性を解析することが可能です。詳細は省きますが、トルク特性Tは、滑りsによって決定され、印加電圧をV1とすると、次式で表されます。図4は、この特性をグラフにしたものです。

図4:誘導モータの特性

始動トルクよりも小さい負荷トルクで始動した場合、その差のトルクで始動し、次第に速度を増して行き最大トルクの地点まで急速に速度が早くなります。最大トルクを過ぎるとトルクが小さくなるので、……

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4. コンデンサラン誘導モータの特性

三相電源が供給されない場合、コンデンサランの単相モータを使用します。単相交流の作る磁界は、磁極が交互に切り替わる交番磁界と呼ばれ、回転磁界とはなりません。図7のように、2相巻線の1つの巻線(補助巻線)にコンデンサを直列接続し電流を流すと、疑似回転磁界(だ円状)を作ることができるので、単相交流でも誘導モータを使用できるようになります。

図7:コンデンサランモータの接続

コンデンサランモータは、数百 W 以下の小容量用途でよく使われています。回転方向を切り替えるためには、……

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第8回:モータの選び方

前回は、誘導モータの特性と制御方法を解説しました。最終回となる今回は、モータの選び方を解説します。モータには、DCモータから交流モータまで多くの種類があり、同じような特性を持っています。このため、用途によって特定のモータを選ぶことはせず、モータの特性や与える負荷を考慮しながら、用途に見合うものを選定します。

1. モータの選び方

まず、モータのトルクが、速度によりどのような特性を持つかを知っておくことが重要です。トルクを増加させると、一般にモータの回転速度は下がります。その下がり方は、誘導モータのようにあまり変わらないもの、永久磁石DCモータのようにトルクの増加により直線的に大きく減少するもの、同期モータのようにトルクが変わっても一定の回転速度で回転するものがあります。また、DCモータは、ブラシの寿命があり、整流により火花が発生するため、使用環境も考慮する必要があります。

・負荷の条件

モータで駆動する負荷は、速度によっていろいろな性質を示します。代表的な負荷特性として、低トルク負荷、2乗トルク負荷、低出力負荷、低減トルク負荷が挙げられます。それぞれの用途例、速度-トルク特性を図1にまとめました。

図1:負荷の種類

用途に合った速度-トルク特性を持つモータを選定しましょう。例えば、……

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2. カタログの見方

モータの製品カタログには、選定に必要なモータの特性が記載されています。その中でも重要な項目を解説します。

表1:モータの特性
モータの特性 説明
定格出力・定格電機子電圧・
定格トルク・定格電機子電流
・定格回転数
定格と付いている特性は、モータの基本的性能を表す
瞬時最大トルク モータ温度が室温状態のとき瞬間的に発生するトルク。短時間定格トルク以上の負荷を掛けるとき、この値以下でなければならない
瞬時最大電機子電流 瞬時最大トルク発生時に流れる電流

……

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3. 制御用モータの容量計算

カタログの中から、用途に合ったモータを選ぶには、まずモータにかかる負荷を知ることが重要です。負荷の要求トルクはいくらか、希望の回転数はいくらか、負荷の慣性モーメントはいくらか、加速減速時の時定数はいくらかなどを知る必要があります。選定のステップは、大きく6つあります。

ステップ 1:モータの機構を選ぶ
機構、概略寸法、重量、速度などを決める。

ステップ 2:モータの使い方を決める
一定速度、速度制限運転など、求めている動作形態を決める。

ステップ 3:使い方に関する特性を確認する
例えば、速度制御運転で、モータに要求される特性、可変速範囲、速度変動率などを確かめる。

ステップ 4:モータの機種を選定する
重点的に特性を比較して、モータの機種を選択する。

ステップ 5:選定の計算を行う
必要とあうるモータ出力(W)を計算する。

ステップ 6:確認の計算を行う
要求される特性、その他の特性を、選定したモータが満足しているか確認する。

モータの慣性モーメントは今のところ不明で、概略値を仮定するか負荷の慣性モーメントと同値と仮定して計算します。運動方程式から、加速に必要なトルクを計算します。負荷の要求トルクをTL(Nm) とすると、運動方程式は、下記になります。Jは、モータと負荷の慣性モーメントの和です。……

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4. 短時間運転の過負荷トルクと運転定格

短時間運転を繰り返して行うときは、定格トルクより大きなトルクで運転ができます。しかし、運転時間が長くなると、モータの温度上昇などが起きて危険です。そのため、負荷に応じた運転時間と休止時間を求める必要があります。モータの定格トルクをT、負荷トルクをTL(Tより大きい過負荷状態)とすると、負荷率(%)は下記の式で計算できます。

負荷率は、モータの温度上昇による制限のため、最大負荷率が定められています。指定されている値を超えないように注意しましょう。また、……

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